訪問看護ステーション経営研究会

多数店舗展開訪看ステーション統括経験者による訪看経営コンサルティング

【訪問看護】各運営スタンスのメリット・デメリット ②緊急編

訪問看護ステーションを起業したい、既に経営している方に向けて、代表される各運営スタンスのメリット・デメリットについて、シリーズで解説していきます。今回は、訪問看護ステーションの基準に係る届出のうち、24時間対応体制加算について詳しく解説していきます。

また、24時間対応体制加算は厳密には医療保険の報酬ですが、今回はシンプルに”緊急のコールを業務時間外を含めて取る(出動含む)か否か”という視点で解説します。

 

この記事は以下のような人におすすめです

  • ステーション基準に係る届出をどうすれば良いかわからない
  • 加算に係る管理の手間などを考えて取得すべきかどうかわからない
  • どのようなスタンスの訪問看護ステーションにすべきか悩んでいる
  • 訪問看護事業を成功させたい 

 

1.何をするための届出なのか

冒頭にも記載しましたが、”緊急のコールを業務時間外を含めて取る(出動含む)”ための届出です。医療依存度の高い方や、自宅での看取りを希望されている方、その他緊急の連絡体制(出動含む)が必要な方に対応する為に必要な届出になります。

2.届出をすることのメリット

 ①受けられる依頼の幅が広がる

届出をした場合、緊急対応が必要な依頼に対応することができるようになります。純粋に受けられる依頼の幅が広がり、依頼数は多くなりやすくなります。売上高だけを考慮すれば、売上高は間違いなく上がると言えるでしょう。また、緊急対応が可能な旨は、周囲の緊急対応をしていない同業者にも伝えておけば、同業者から利用者引き継ぎの依頼が来ることすらあります。

 ②利用者に提案できる自社サービスの選択肢が増える

利用者の状態(や周囲の環境要因)が悪化した場合、緊急対応が必要になることがあります。そうした場合に緊急対応を含めて、提示できる選択肢が増えます。緊急対応ができない訪問看護ステーションにおいては、緊急対応以外の方法で何とかして対応したり、他サービスの緊急対応に任せる等の対応をしたりするしかありません。緊急対応ができれば、自社サービスで完結できますし、利用者にとってベストな選択肢を提供することができるでしょう。

 ③加算算定による報酬を得られる

介護保険医療保険共に、緊急対応をするための加算が存在します。利用者1人につき、1月あたり6千円弱〜7千円弱ほど(等級地や保険によって異なる)の報酬が発生します。ステーション1箇所につき、同加算を算定している利用者が100名いれば、加算のみで月あたり60〜70万円程度の売上がたつ計算になります。

ブランディングがしやすい、強みになる

デメリットにて詳しく記載しますが、緊急対応の体制を維持することは非常に大変です。ゆえに、緊急対応をしないことのメリットもまた多く、全ての訪問看護ステーションが緊急対応の体制ではないわけです。よって、”緊急対応をしている”こと自体がステーションの強みになり、地域におけるステーションのブランディングとなります。また、看護スタッフの中には「自宅での看取りがしたいので訪問看護をやりたい」という方も少なくありません。採用面でごく一部ですが有利になる場合もあります。

 

3.届出をすることのデメリット

 ①オンコール者の採用が難航しやすい

緊急対応の電話(=オンコール)を持つスタッフを”オンコール者”、”待機者”などと呼称します。オンコール者は、業務時間外においても電話を取り続けなければならず、必要に応じて訪問をしなければなりません。夜勤が無理な場合や、オンコール範囲が広大な場合で自動車が運転できない場合、夜勤制にしていない場合でオンコール範囲から居住地が遠い場合等にはオンコールに対応できません。ステーションの規模や出動頻度にもよりますが、オンコール者を厚く配置しておかなければスタッフの消耗は激しくなり、定着率低下につながるでしょう。

 ②スタッフが負担に感じやすい

上記した内容と多少重複しますが、オンコール者は夜間の電話対応や必要に応じての訪問をしなければなりません。訪問の内容にもよりますが、看取りの場合やベッドから滑落している場合など、時間的にも体力的にも消耗が激しいことも少なくありません。頻度も大きく関係してきますが、自分がオンコール当番の時に運悪く立て続けに大変な対応が重なったりすると、負担に感じてしまうスタッフは多いでしょう。

 ③シフトが組みにくい

夜勤制の有無に関わらず、シフト上オンコール当番はなるべく散らす必要があります。また、週末に続けてオンコール当番をしたくなかったり、月あたりのオンコール回数を平均にしたりと、シフト作成がかなり複雑になります。それだけでもシフト末の管理者(シフト作成者)の負担は計り知れません。

 ④結果的にコストが上回ることも

上記してきた通り、オンコールはスタッフの心身の消耗が非常に激しい体制と言えます。相応以上の対価が支払わなければスタッフの離職に繋がり兼ねません。また、夜勤制にすれば、夜勤者の明け(実質休み)と明けの翌日は休日にする必要がある為、人員が割かれることとなり、結果的に割かれた分の人件費が必要になります。体制を維持することのメリットと、算定報酬以上のコストをスタッフに支払うことを天秤にかけて、体制を維持するために結果としてコストが上回っているステーションも存在します。

まとめ

緊急対応の体制をとることは、訪問看護サービスの利用者にとってはメリットしかありませんが、そのサービスを提供する訪問看護スタッフにとっては、負担となることが多いと言えます。利用者にとってメリットとなることには取り組むべきですが、それと同様に、もしくはそれ以上にサービスを提供するスタッフには十分な計らいをしていかなければ、経営者は足元をすくわれてしまいかねません。ステーションの崩壊は結果的として利用者を苦しめることになってしまいます。熟考した上で加算の取得を決めましょう。