訪問看護ステーション経営研究会

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【訪問看護】各運営スタンスのメリット・デメリット ③リハ雇用編

訪問看護ステーションを起業したい、既に経営している方に向けて、代表される各種スタンスのメリット・デメリットについて、シリーズで解説していきます。今回は、リハビリ専門職を雇用してリハの依頼を受けるべきか否か、について詳しく解説していきます。

 

この記事は以下のような人におすすめです

  • ステーション基準に係る届出をどうすれば良いかわからない
  • 加算に係る管理の手間などを考えて取得すべきかどうかわからない
  • どのようなスタンスの訪問看護ステーションにすべきか悩んでいる
  • 訪問看護事業を成功させたい 

 

1.リハ雇用のメリット

 ①受けられる依頼の幅が広がる

リハスタッフを雇用した場合、リハビリの依頼(看護スタッフが実施するよりもより専門的な)に対応することができるようになります。純粋に受けられる依頼の幅が広がり、依頼数は多くなりやすくなります。訪問リハ(訪問看護とは異なる在宅リハビリテーションサービス)が浸透しきっていない地域が少なく無いこともあり、在宅におけるリハビリテーションのニーズ、需要共に非常に多く、現状では収益性は上がりやすくなると言えるでしょう。

 ②より専門的なサービス提供が自社でできる

看護師が訪問している利用者で、リハビリテーションのニーズがある、または状態の変化によって出てくる場合は多々あります。リハスタッフを雇用していない等の場合によっては看護師がリハビリテーションを行うことも少なくありませんが、看護スタッフはリハビリテーションの専門職ではないため、リハスタッフよりも効果は望めません。他社に依頼するという選択肢もありますが、自社でリハスタッフを雇用することで、リハビリテーションにおいては、より専門的なニーズにタイムリーに応えることができるようになります。また、”リハスタッフがいる”というブランディングを、利用者や関係機関にアピールすることができるようになります。

 ③看護・リハのシームレスな連携ができる

②においても記載しましたが、リハビリテーションのニーズに応える選択肢は、主に①看護師、②自社リハスタッフ、③他社リハスタッフの3つです(※本人や家族がリハビリテーションを行う場合は指導等も含めリハスタッフ等の介入が必要となります)。①の場合はもちろんですが、②の場合も、同一事業所のスタッフであるため、連携はしやすいと言えるでしょう。③の場合は、記録やスケジュールを共有しているわけでは無いため、どれほど努力しても①、②よりシームレスな連携は望めないでしょう。

2.リハ雇用のデメリット

 ①訪問看護業界においてリハが向かい風

訪問看護におけるリハビリテーションの位置付けは、リハスタッフが、あくまでも「看護師の代わりに、リハビリテーションにおけるより専門的な業務を行う」ことです。訪問”看護”なのだから、本来看護師が行う業務なのだが、たまたまリハスタッフはリハにおいてのみ看護師よりも専門的な業務遂行ができるため、限定的に看護業務の一部を代行することを許可されている、ということなのです。それゆえか、法改訂の度にリハサービスは減算(報酬が減る)を繰り返しています。また、ステーションの看護スタッフとリハスタッフの配置人数の比率によっては取得できなくなる加算すらあります(リハが多いと取得できなくなる)。リハビリテーション専門職の団体(協会)は、医療職のヒエラルキーにおいて、医師や看護師の団体とは全く位置が異なります。圧倒的に立場が弱いのです。加えて、医師・看護師・薬剤師・歯科医師とは異なり、単独で保健請求ができません。報酬の算定においても療法士たちの母体組織においてもまるで安定感の無い立場に置かれ続けています。雇用を守る観点から、いきなりリハスタッフたちが訪問看護ステーションで働けなくなることは無いでしょうが、徐々にその方向に向かっていくことは十分に考えられます。ゆえに、明るい先行きが見えないことが唯一で最大のデメリットと言えるでしょう。

まとめ

現状の制度では、訪問看護ステーションのスタートアップにおいて、リハスタッフを雇用することのメリットは多く、デメリットは少ないと言えます。ただ、リハスタッフメインの訪問看護ステーションは、法改正の煽りを受けやすいと言えます。リハスタッフの比率は多くても半分ほどに留めておくなど、今後を見据えたスタンス設定を検討するべきでしょう。

【訪問看護】各運営スタンスのメリット・デメリット ②緊急編

訪問看護ステーションを起業したい、既に経営している方に向けて、代表される各運営スタンスのメリット・デメリットについて、シリーズで解説していきます。今回は、訪問看護ステーションの基準に係る届出のうち、24時間対応体制加算について詳しく解説していきます。

また、24時間対応体制加算は厳密には医療保険の報酬ですが、今回はシンプルに”緊急のコールを業務時間外を含めて取る(出動含む)か否か”という視点で解説します。

 

この記事は以下のような人におすすめです

  • ステーション基準に係る届出をどうすれば良いかわからない
  • 加算に係る管理の手間などを考えて取得すべきかどうかわからない
  • どのようなスタンスの訪問看護ステーションにすべきか悩んでいる
  • 訪問看護事業を成功させたい 

 

1.何をするための届出なのか

冒頭にも記載しましたが、”緊急のコールを業務時間外を含めて取る(出動含む)”ための届出です。医療依存度の高い方や、自宅での看取りを希望されている方、その他緊急の連絡体制(出動含む)が必要な方に対応する為に必要な届出になります。

2.届出をすることのメリット

 ①受けられる依頼の幅が広がる

届出をした場合、緊急対応が必要な依頼に対応することができるようになります。純粋に受けられる依頼の幅が広がり、依頼数は多くなりやすくなります。売上高だけを考慮すれば、売上高は間違いなく上がると言えるでしょう。また、緊急対応が可能な旨は、周囲の緊急対応をしていない同業者にも伝えておけば、同業者から利用者引き継ぎの依頼が来ることすらあります。

 ②利用者に提案できる自社サービスの選択肢が増える

利用者の状態(や周囲の環境要因)が悪化した場合、緊急対応が必要になることがあります。そうした場合に緊急対応を含めて、提示できる選択肢が増えます。緊急対応ができない訪問看護ステーションにおいては、緊急対応以外の方法で何とかして対応したり、他サービスの緊急対応に任せる等の対応をしたりするしかありません。緊急対応ができれば、自社サービスで完結できますし、利用者にとってベストな選択肢を提供することができるでしょう。

 ③加算算定による報酬を得られる

介護保険医療保険共に、緊急対応をするための加算が存在します。利用者1人につき、1月あたり6千円弱〜7千円弱ほど(等級地や保険によって異なる)の報酬が発生します。ステーション1箇所につき、同加算を算定している利用者が100名いれば、加算のみで月あたり60〜70万円程度の売上がたつ計算になります。

ブランディングがしやすい、強みになる

デメリットにて詳しく記載しますが、緊急対応の体制を維持することは非常に大変です。ゆえに、緊急対応をしないことのメリットもまた多く、全ての訪問看護ステーションが緊急対応の体制ではないわけです。よって、”緊急対応をしている”こと自体がステーションの強みになり、地域におけるステーションのブランディングとなります。また、看護スタッフの中には「自宅での看取りがしたいので訪問看護をやりたい」という方も少なくありません。採用面でごく一部ですが有利になる場合もあります。

 

3.届出をすることのデメリット

 ①オンコール者の採用が難航しやすい

緊急対応の電話(=オンコール)を持つスタッフを”オンコール者”、”待機者”などと呼称します。オンコール者は、業務時間外においても電話を取り続けなければならず、必要に応じて訪問をしなければなりません。夜勤が無理な場合や、オンコール範囲が広大な場合で自動車が運転できない場合、夜勤制にしていない場合でオンコール範囲から居住地が遠い場合等にはオンコールに対応できません。ステーションの規模や出動頻度にもよりますが、オンコール者を厚く配置しておかなければスタッフの消耗は激しくなり、定着率低下につながるでしょう。

 ②スタッフが負担に感じやすい

上記した内容と多少重複しますが、オンコール者は夜間の電話対応や必要に応じての訪問をしなければなりません。訪問の内容にもよりますが、看取りの場合やベッドから滑落している場合など、時間的にも体力的にも消耗が激しいことも少なくありません。頻度も大きく関係してきますが、自分がオンコール当番の時に運悪く立て続けに大変な対応が重なったりすると、負担に感じてしまうスタッフは多いでしょう。

 ③シフトが組みにくい

夜勤制の有無に関わらず、シフト上オンコール当番はなるべく散らす必要があります。また、週末に続けてオンコール当番をしたくなかったり、月あたりのオンコール回数を平均にしたりと、シフト作成がかなり複雑になります。それだけでもシフト末の管理者(シフト作成者)の負担は計り知れません。

 ④結果的にコストが上回ることも

上記してきた通り、オンコールはスタッフの心身の消耗が非常に激しい体制と言えます。相応以上の対価が支払わなければスタッフの離職に繋がり兼ねません。また、夜勤制にすれば、夜勤者の明け(実質休み)と明けの翌日は休日にする必要がある為、人員が割かれることとなり、結果的に割かれた分の人件費が必要になります。体制を維持することのメリットと、算定報酬以上のコストをスタッフに支払うことを天秤にかけて、体制を維持するために結果としてコストが上回っているステーションも存在します。

まとめ

緊急対応の体制をとることは、訪問看護サービスの利用者にとってはメリットしかありませんが、そのサービスを提供する訪問看護スタッフにとっては、負担となることが多いと言えます。利用者にとってメリットとなることには取り組むべきですが、それと同様に、もしくはそれ以上にサービスを提供するスタッフには十分な計らいをしていかなければ、経営者は足元をすくわれてしまいかねません。ステーションの崩壊は結果的として利用者を苦しめることになってしまいます。熟考した上で加算の取得を決めましょう。

【訪問看護】各運営スタンスのメリット・デメリット ①精神編

訪問看護ステーションを起業したい、既に経営している方に向けて、代表される各運営スタンスのメリット・デメリットについて、シリーズで解説していきます。今回は、訪問看護ステーションの基準に係る届出のうち、精神科訪問看護基本療養費について詳しく解説していきます。

 

この記事は以下のような人におすすめです

  • ステーション基準に係る届出をどうすれば良いかわからない
  • 加算に係る管理の手間などを考えて取得すべきかどうかわからない
  • どのようなスタンスの訪問看護ステーションにすべきか悩んでいる
  • 訪問看護事業を成功させたい 

 

1.何をするための届出なのか

精神科訪問看護基本療養費の届出とは、平たく表現すれば、精神科訪問看護指示書が発行された場合に対応できるか否か、つまり精神疾患を有する方に対する訪問看護を実施するか否か、に係る届出です。さらに言い方を変えれば、精神疾患を有する方に対する訪問看護の依頼を受けるか否か、を決めることになります。

2.届出をすることのメリット

 ①受けられる依頼の幅が広がる

届出をした場合、精神科訪問看護指示書の発行に対応することができるようになります。純粋に受けられる依頼の幅が広がり、依頼数は多くなりやすくなります。依頼元は精神科を有する医療機関、居宅介護支援事業所(ケアマネージャー)、自治体で地域を担当する保健師、地域の精神障害者等を支援する団体等です。収益面だけを考慮すれば、収益性は上がりやすくなると言えるでしょう。

 ②管理・実地指導対策の手間が少ない

精神科訪問看護介護保険分野と必ずしも交わらないこともあり、介護保険による報酬算定をしている訪問看護ステーションと比較して、書類管理や実地指導対策の手間が段違いに少ないと言えます。実地指導の中でも報酬面での指導においては、主に介護保険報酬に対する指導であることを考慮すれば当然ですが、そもそも精神科訪問看護基本療養費は実地指導の対象にはなりづらく、実地指導で警戒すべき返戻等の対象にはなりづらいと言えるでしょう。

 ③報酬が高値で安定しやすい

精神科訪問看護の訪問1件あたりの報酬は約9,000円で、あまり大きな変動がありません。介護保険での報酬が約3,000円〜12,000円でバラつきがあり、依頼内容等によって変動があることと比較すると、ある程度の高値で安定していると言えるでしょう。また、月毎・年毎の訪問単価が安定しやすいため、事業の規模が変わったとしても、堅実な事業計画を作成しやすいと言えるでしょう。

3.届出をすることのデメリット

 ①報酬の現金化が遅くなりやすい

精神科訪問看護は、特に訪問開始後の数ヶ月間、報酬の現金化が遅くなりやすいという特徴があります。精神科訪問看護のほとんどは、基本的には自立支援医療の枠組みの中で行われます。自立支援医療の枠組みで訪問看護を利用するには、自治体等の窓口から利用する訪問看護ステーションを届出しなければなりません。その届出が承認されるまでは、自立支援医療の枠組みで請求することはできなくなります。それでも一般の医療保険介護保険のように最短期間で請求をする方法はありますが、利用者自己負担がある場合は自己負担額が増加したり、そもそも生活保護受給者である場合は福祉課の担当者の裁量によってきたりする(自立支援医療の枠組みで請求を行うか否かの判断)ため、いずれにしても利用者や関係者に対して事前の入念な確認をしておく必要があります。自立支援医療の枠組みで請求する場合は、届出から承認までの数ヶ月間の請求が停止することとなり、その間の報酬算定ができなくなります。

 ②スタッフが算定要件を満たしている必要がある

そもそも、精神科訪問看護基本療養費の届出をするにあたり、一定の要件を満たしたスタッフを配置している必要があります。一定の要件を満たすにはいくつかの方法(経歴や経験、研修等)があります。また、届出をして、精神疾患を有する方に対する訪問看護を開始したとしても、特定のスタッフでしか対応ができず、スケジュール調整やシフト調整、採用面での負担となりやすいと言えるでしょう。また、一定の要件を満たすための研修参加に係る費用や時間等もデメリットと言えるでしょう。

まとめ

届出の要件を満たしている場合は、ひとまず届出をしておいて、依頼を受けるタイミングで実際に訪問するかどうかを検討する、という手段もありますが、事前にしっかりと訪問看護ステーションの運営スタンスを決めてから届出をすることをお勧めします。要件を満たしているだけでは利用者に対して良いサービスは提供できません。収益性を考慮することと、精神疾患を有する方の在宅生活を支援したいという熱い想いを両立してこそ、精神科訪問看護基本療養費の届出をする資格があると言えるでしょう。